三国志演義の前半と後半の違いに少しだけ触れてみよう!

三国志三国志演義の違いを「はじめに」でちらっと書きました。

このブログでは三国志演義の桃園の誓いから諸葛亮孔明死去までの部分を前半(184年~234年)とし、孔明死後から晋の三国統一までを後半(235年~280年)としています。

この前半と後半、羅貫中の筆致の違いはずいぶん目につきました。 前半も後半も、大体50年くらいずつですね。

三国志演義前半と後半の温度差

でも、密度が全然違う。 羅貫中三国志演義は全120回。 184~234年の前半部分が第1回から第105回まで。

後半約50年は15回しかありません。週刊少年ジャンプで連載していたら、「打ち切られた」と思われても仕方ないくらい短いです。

羅貫中が、編集部の打ち切り警告を振り切って、駆け足で書き上げたのか。もしくは、主役に乏しい後半に、羅貫中自身が執筆する気力が失せてきたのか。それはわかりません。

私自身、横山三国志をパラ読みして、吉川英治三国志を全巻読んだ後、三国志演義羅貫中)の文庫本第8巻(第106回~第120回)をいきなり読んだので、消化不良を起こしました。

小説三国志と比べて、事務的に淡々と描かれているし、「出てくる武将はすぐに死んじゃうなあ~」と変に感心したのを覚えています。高校生の頃でしたので、小説と演義のギャップに結構引いていました。部室に放置しといたら、珍しがって部員の1人が読んでくれました。

孫峻⇒孫チン⇒孫皓って、すげー連鎖だなっw」 「岑昏喰われたw」 「許儀が殺されるなんて、納得いかない。どう考えてもおかしい」 「詩だけは立派だな」

これが、彼の感想でした。 感想になっていないですけどね・・・。

さて、羅貫中の筆致。

 

1.みずみずしかった武将同士の会話

殺伐とした描写も結構多いけど、曹操を始めとするメインキャラクターと周辺キャラクターとの絡みや小噺も満載で、テンポよく読めるのが前半。後半同様、出落ち武将も多いですが、何かを残して去って行ってくれます。前半は武将同士の会話も多く、筆に熱が入っていました。

回の終盤毎に、講釈師風な書き方で次回につなげます。 董卓呂布貂蝉を争っている場面で、董卓が逃げた呂布を追いかけて、途中で李儒とぶつかって倒れてしまう。

「まさに、怒り千丈天を衝き、ふとっちょばったり肉の山、というところ。さてこの男は誰か。それは次回で」

後半には見られない、元気のあるつなぎです。

董卓討伐連盟を結成したものの、袁紹が総大将では、せっかくの連合軍もぐだぐだになってしまい、あきれた公孫瓉が、「袁紹は脳なしだ」とか愚痴ったり。

曹操軍が張魯の籠る漢中を攻める際、張魯の陣立てをみて曹操が弱気な発言をしてしまう。

「ここが、これほどの難関と知っておれば、決して攻め下ろうなぞとは思わなかったのだが」

傍らのボディーガード許褚が、

「そんな弱気でどうなさいますか」

と、曹操を励まします。 それを言われても曹操は怒らないどころか、翌日、一緒に敵陣を視察。 義後半で、器の小さな上司にこんなセリフを吐いてしまったら、間違いなくあの世行きです。

曹操が部屋で休んでいるとき、夏侯惇が駆け込んでくる。 見張りをしていた許褚が、絶対に通さないと夏侯惇を部屋に入れない。

夏侯惇は、

「私は曹一門なんだから入れろ」

と、凄みますが、許褚は拒絶。

それを知った曹操は、「許褚はまったくの忠臣じゃ」と感激してみたり。 後半では、武将同士の無駄な絡みが少なく、ストーリーの進行上、事務的に絡んでる気がします。後半での名シーンを上げるとしたら、呉の将軍陸抗陸遜の子)と晋の羊コ将軍の友情くらいか・・・。

 

2.後半ではほとんど見られない武将の暴れっぷり

前半は張飛呂布、許褚、徐晃甘寧などの超人クラスが大暴れして、武将のパワーインフレを巻き起こしたりします。

袁紹の配下の猛将兪渉、韓腹の部下大斧使いの潘鳳が華雄に屠られたかと思いきや、その華雄をノーダメージで軽く倒す関羽。さらに劉備関羽張飛の三兄弟が一度に掛かっても、全くびくともしない呂布将軍とか。

ストーリー自体の楽しさはもちろんですが、それを支えているのが、戦国時代ではつきものの人間離れした超人武将たちのバトルシーンであることは言うまでもありません。

虎を殺した孫礼とか、世紀末覇者っぽいのがおらず、後半にはほとんどこのようなシーンはありません。 後半ですと、姜維や文鴦の暴れぶりくらいです。その他、無理やり挙げてみると、鄧忠、徐質、傅僉くらいでしょうか。 姜維も確かに強いのですが、書かれ方が意外とさりげないのであまり目立ちません。 他の武将も無双発動しますけれども、死に際にひと暴れしてやった感が強いです。

羅貫中も疲れてきたのか、「架空武将を水増しして、そいつらを史実武将に斬らせて、手柄をたたせる」手法をあまり用いませんでした。

 

三国志演義後半は面白くないのか!?」

と突っ込みを入れられそうですが、十分面白いです。 名将、勇将の子孫たちがある程度活躍しますし、内部から衰退する魏朝廷(曹一門)を救おうと死士志士諸葛誕、毌丘倹が立ち上がります。

何より、有名な魏呉蜀の皇室の子孫たちが、いかにして国を全うしていくか、駆け足で繰り広げられる人間ドラマを、深読みしながら読んでいくと面白いです。

孔明イズムを継承した智勇兼備の姜維が、結果はどうあれ大活躍しますし、魏の鄧艾も鄧忠と師纂をうまく使って蜀軍を蹴散らします。

呉も孫家の大将軍、丞相クラスが、その地位にふさわしくない行動を取ったりと見どころ満載です。 私のお勧めとしては、三国志をまだ読んだことのない人は、横山光輝三国志か、吉川英治三国志を全部読み終えてから、羅貫中三国志演義の文庫本第8巻を読むとすごく楽しめます。

私も地味武将、出落ち武将をピックアップし、妄想を膨らませながら、楽しい記事を書いていきますので宜しくお願いします!